小山市
境内の墓地の一番高い所に足利氏の一族でこの地を領有した小俣氏4代目法印尊光の五輪塔と並んで石造卒塔婆(栃木県文化財)が建っております。その卒塔婆にまつわるお話があります。600年以上前に現在は廃寺となっている明月院というお寺があり信光という修行僧がおりました。信光は笛の名手で修行がすんだ夕暮れに村の家々の明かりを見ながら笛を吹くのが唯一の楽しみでした。その笛の音に聞き入っている娘がおりました。この丘の麓に住む郷士の大川義種の娘の菊枝で琴の名人であり笛に琴を合わせてみると美しく響きました。そんな日が毎日続くと菊枝は笛を吹いている人のことが気になり笛の音をたよりに坂を上っていきました。そして笛を吹いている信光を見つけ語り合い深く愛しあうようになりました。ところがこのことが菊枝の父親に知られてしまいました。娘を怒鳴りつけ屋敷の奥に閉じ込めました。菊枝は食べ物も喉を通らず寝たきりとなってしまいました。ある夜かすかに聞こえてくる笛の音で逢いたいという思いに取りつかれそっと部屋を抜け出しましたが庭先でばったり倒れ亡くなってしまいました。信光は毎夜坂の上で今夜は逢えるかと待ち続けておりましたが来る気配はありませんでした。そんな時に住職に菊枝の死を聞かされ日増しに元気がなくなり笛の音色も美しくも物悲しく響きました。一人の村人が明月院へ行くため坂道を上ると松の木にもたれ笛を抱えてうずくまっている信光を発見しました。既に体は冷たくなっておりました。住職は哀れに思い大川家の墓地の近くに葬ったという非常に悲しいお話です。これが石造卒塔婆で稚児の碑とも呼ばれております。またお寺の駐車場とお寺の間にある坂が信光が笛を吹いていたとされる坂です。笛吹き坂と呼ばれ夕暮れにはどこからともなく笛の音色が聞こえてきそうな雰囲気が感じられました。(笛吹山 恵性院)
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