とちぎは全国でも有数の産業が盛んな県で、県外にファンが大勢いる名物も数知れず!そこで「いいもの、たくさん!とちぎの◯◯ 誕生物語」と題して、とちぎの名品たちがどのような思いを込められて生まれたのか?気になるその誕生秘話をご紹介します。
ヨーロッパで大人気の自転車。その部品は足利でつくられているって本当ですか?!
「歯車」と聞いて、皆さんは何を思い出しますか?日常で歯車が動いているところを見る機会は滅多に無いため、馴染みのないもののように感じる方が多いと思います。でも実はモノを動かすためには必須の部品。街中で見かける自動車や、大空を駆け巡る飛行機、医師の手術を支援するロボットなどなど。他にも私たちの生活を豊かにする多くのモノの中で使われているのです。この歯車を専門につくっている会社が、足利にある菊地歯車株式会社。今回は同社が携わっている製品の中からマウンテンバイク型電動アシスト自転車をピックアップ。国内メーカーが販売している自転車ですが、ヨーロッパで人気沸騰中!この自転車で使用されている歯車について、代表取締役社長の菊地義典さんにお話を伺いました。
仕事は断らない。そのおかげで、いろんな業種から依頼が殺到!
当社は1940年に創業。もともとは足利の伝統産業である機織りの工場を営んでいました。その後、加工機を購入し歯車の事業も展開。戦後は歯車専業の会社になりました。歯車はあらゆる機械になくてはならない部品です。幅広い業種から、いつ声がかかっても対応できるようにとにかく技術力は磨いていました。常に新しいことに挑戦したいという社員が多いので、社員自ら積極的に知識や技術を習得していたんです。そのおかげで、自動車や建設機械、油圧機器、工作機械、事務機械そして航空宇宙と柔軟に対応し、その全てで高い評価を獲得。依頼は絶えず、現在は5500種類に及ぶ歯車を取り扱うまでになりました。今回ご紹介する電動アシスト自転車は、「菊地歯車」ならできるのではないかと思っていただいたのがきっかけです。試作をつくった上で合格し、正式に発注となりました。
日本でつくるのだから、ジャパン品質を見せつけたい!
実はこの電動アシスト自転車は、これまで海外でつくられていました。3年ほど前国内でつくれる会社を探していた時に、当社が選ばれたという流れです。国内生産になるからには、“やはりメイドインジャパンの品質は違うな”と感じていただきたい。そんな強い思いでスタートしました。自転車は当社にとって初めての分野。しかも通常手がけている歯車よりも小さいので、苦労しましたね。一番頭を悩ませたのが、人が漕ぐとどうしても音がしてしまうこと。車と違ってエンジン音がないため、ダイレクトに聞こえてしまい、乗る人は気になってしまうんです。試作を重ねていた時に、微細な加工残りがあるだけで音につながってしまうことに気づいたのですが、機能を維持しつつ、どのレベルまで加工をすれば音が出なくなるのか、かなり試行錯誤しました。技術力に自信があると言いながら、なんでこんなに苦労したのか?って思いますよね。当たり前ですが、お金をかければいくらでも良いものはつくれます。でも、それでは工業製品としては成り立たない。製造メーカーとして、コストと性能のバランスを取る難しさを痛感しました。やっと合格をもらえた時は、本当に嬉しかったです。
もともと人気の自転車が、コロナ禍により人気が再燃!
日本で電動アシスト自転車というと、高齢者の方や、たくさんの買い物をする時のお母さんをサポートする自転車と思っている方が多いと思います。実は、この電動アシスト自転車は全く違う利用のされ方をしているんです!日本よりもヨーロッパで人気なのは、その楽しみ方。この自転車に乗って山に登り、山の上からのダウンヒルを楽しんでいるそうなんです。アクティビティの一つとして乗っている方が多いんですね。日本にはその文化がないので比較するのは難しいですが、電動アシストとスポーツの良さを併せ持った自転車なので、楽しみ方が広がれば、日本でももっと人気は出ると思います。
現在コロナ禍のため、世界中で密は避ける動きがあります。そのためヨーロッパでは自転車の需要が高まっていて、追加生産も決まっているそうです。コロナは嫌ですが、時代に必要とされている製品をつくっていると実感しました。
足利から世界中に、最先端の歯車を届けたい。
歯車は、紀元前からの長い歴史がありますが、まだまだ進化し続けている部品。私が歯車に対して興味が尽きないのはそれが理由です。しかも、多くの機械の中で必要とされるもの。だからどの分野でも行こうと思えば行けるんですね。例えば、私たちも携わった手術支援ロボット。医療用?と思うかもしれませんが、歯車という分野なら開発に関わることが可能なんです。
これからも私たちはメイドインジャパンにこだわり、足利から拠点を移すつもりはありません。日本でものづくりをするのだからトップレベルを目指すのは当然。日本はもちろん世界中で活躍する最先端の歯車をつくり続けていきたいと思っています。
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[取材日:2020/08/17]
クチコミ
取材:2020年08月
※掲載内容は取材時の情報です。